
※画像出典:エキサイトニュース
目次
▶加害者の身元の開示手続きを簡略化!
▶プロバイダ責任制限法について!
▶改正プロバイダ責任制限法のポイント!
▶トラブルは増加傾向!
▶被害者救済に一歩前進?
▶解説講演「2021年プロバイダ責任制限法改正について」!
▶改正プロバイダ責任制限法の深刻な副作用!
▶改正プロバイダ責任制限法+改正刑法=現行最大レベルの表現規制!
■改正プロバイダ責任制限法施行 SNS中傷の発信者情報開示を簡便に
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2210/03/news130.html
ITmedia 2022年10月03日 16時58分 公開
ネット上で誹謗中傷された被害者が、加害者の情報開示請求を簡便に行えるようにする改正プロバイダ責任制限法が10月1日に施行された。開示請求にはこれまで2段階の裁判手続きが必要だったが、1回の手続き(非訟手続)で可能になる。
■ネットでの誹謗中傷投稿者を一発開示、改正法10月施行…被害経験者「手続き早まれば踏み出せる」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220928-OYT1T50158/
読売新聞オンライン 2022/09/28 15:30
インターネットに悪質な投稿をした人の身元の開示手続きを簡略化する「改正プロバイダー責任制限法」が10月1日に施行される。これまでは特定するまでに時間がかかり、迅速化が課題となっていた。かつて 誹謗ひぼう 中傷を受けた人からは、被害の救済や抑止効果を期待する声が上がる。(今泉遼、鈴木貴暁)
加害者の身元の開示手続きを簡略化!
2022年10月01日(土)。インターネットに悪質な投稿をした加害者の身元の開示手続きを簡略化する「改正プロバイダ責任制限法」は同日に施行されました。被害者救済を円滑にする為に「発信者情報開示」について新たな「裁判手続(非訟手続)」を創設しました。現行のプロバイダ責任制限法の課題と改正プロバイダ責任制限法のポイントを解説します。
プロバイダ責任制限法について!
プロバイダ責任制限法の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示に関する法律」です。これはその名の通りでプロバイダ等の損害賠償責任の制限と発信者情報の開示請求について定めた法律です。
改正プロバイダ責任制限法のポイント!
改正プロバイダ責任制限法の主な変更点は以下の2点です。
- (1)新たな裁判手続(非訟手続)を創設
- (2)発信者情報の開示対象の拡大
(1)について、従来の法律では、コンテンツプロバイダに対して「IPアドレス等の開示を求める為の仮処分」の申し立てを行ってIPアドレスや経由プロバイダに関する情報の開示を受けます。次に、経由プロバイダに対して「発信者情報の開示を求める為の訴訟」を行います。
要するに、被害者は発信者情報の開示を求める為に「2段階」の裁判手続きを行わなければなりません。時間と費用の両面で負担は大きく被害者は泣き寝入りを余儀なくされます。
改正プロバイダ責任制限法では、従来の2段階の裁判手続きを行う方法と別に「ひとつの手続きで発信者情報の開示まで完了できる新しい制度」を創設しました。コンテンツプロバイダへの申し立てと経由プロバイダへの申し立てを併合、同一の手続きで審理します。
また、審理中に発信者情報を消去されることを防ぐ為の申し立ても併せて行えます。これによって、スムーズな発信者情報の開示を行って被害者の権利侵害情報を発信した者に対して「法的責任」を追及し易くなります。
(2)について、従来の法律では、開示対象の発信者情報に「ログイン時のIPアドレス等を含むか否か?」は明確ではなく裁判所の判断によっては開示請求を認められないケースもあります。
改正プロバイダ責任制限法では、一定の要件を満たした場合に「ログイン時のIPアドレス等」を開示対象にできます。これによって、近年社会問題化しているSNSを利用した権利侵害投稿に関して「投稿時のIPアドレス等を記録していない場合」でも「ログイン時のIPアドレス等」を開示されることで発信者を容易に特定可能になります。
トラブルは増加傾向!
インターネット上の誹謗中傷などに関する被害相談は増加しています。総務省の「違法・有害情報相談センター」に寄せられた相談は2021年度に「6329件」で10年前の4倍以上です。
内訳で最多は「名誉毀損」で2558件、次点は住所や電話番号などを晒す「プライバシー侵害」で2252件、相談者の内、発信者の特定方法を希望する人の割合は増えて2015年度は4%だったのに対して2021年度は「16%」になっています。
誹謗中傷に関する相談を受け付ける一般社団法人「セーファーインターネット協会(SIA)」では、誹謗中傷に該当すると判断した場合、ウェブサイトやSNS事業者に連絡、削除要請を行っています。同協会は昨年1年間に要請した1414件の内、74%にあたる1046件は削除されています。
被害者救済に一歩前進?
改正プロバイダ責任制限法の「新たな裁判手続き」は「プロバイダ側の協力」に委ねられています。プロバイダ側の協力を得られそうなケースや開示要件を満たしているか否かを判断し易いケースでは活用できます。
一方で、プロバイダ側で争う姿勢を見せている場合は「従来の2段階の裁判手続きを行う方法」を選択せざるを得ません。この場合は被害者の負担は変わらず実効的に機能するか否かは未知数です。
しかし、弁護士等を通じて加害者の情報開示請求を受けた場合、発信者情報を特定困難なケースを除けばプロバイダ側に拒否されることは考えられません。被害者救済の意味では大きく前進です。
解説講演「2021年プロバイダ責任制限法改正について」!
改正プロバイダ責任制限法の深刻な副作用!
被害者救済の意味では大きく前進したものの発信者情報は「通信の秘密」で保障された権利です。改正プロバイダ責任制限法は憲法で保障された以下の部分に抵触しかねず副作用は非常に深刻です。
- 通信の秘密(憲法21条)
- 表現・言論の自由(同上)
- 匿名表現の自由(同上)
- 虚偽表示の自由(同上)
- プライバシー権(憲法13条)
裁判所で個々の事案に応じて「被害者を救済を優先するべきか?」「発信者の通信の秘密や匿名表現の自由を尊重するべきか?」を判断します。発信者情報の開示を求める新たな裁判手続きは「裁判所の裁量」に大きく左右されます。
更に、今年7月7日(木)には「侮辱罪」を厳罰化する「改正刑法」を施行しました。拘留(30日未満)または科料(1万円未満)だった法定刑を「1年以下の懲役もしくは禁錮」「30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」に引き上げられました。公訴時効は「3年」に延長されます。
背景にあるのは2020年にSNSの誹謗中傷を苦に自殺したプロレスラーの木村花氏(当時22歳)の事件、これを切っ掛けに見直し議論は拡大、一気に規制強化に進みました。一定の理解はできるものの非常に稚拙な法改正です。
改正プロバイダ責任制限法+改正刑法=現行最大レベルの表現規制!
匿名での「正当な批判」に対して訴訟を匂わせることで合法的にそれを封殺できます。法律の性質上「金」「時間」「組織力」のある人は圧倒的に有利で当ブログで再三指摘してきたように「スラップ訴訟」の温床になり得ます。
AV新法を巡ってフリーライターの荒井禎雄氏を恫喝した弁護士の伊藤和子氏、日刊ゲンダイのインタビュー記事を理由に名誉棄損で「れいわ新選組」の大石あきこ氏と発行元の「日刊現代」を提訴した橋下徹氏、浅草キッドの水道橋博士の投稿したツイートについて「法的手続きします」と投稿した日本維新の会の松井一郎氏、同ツイートを「リツイート(RT)した方も同様に対応します」とスラップ訴訟を匂わせたことで話題になりました。
古くは支持者への誹謗中傷を理由にタレントのマツコ・デラックス氏にスラップ訴訟を仕掛けたN国党(当時)の立花孝志氏など既に前例はあります。これらはすべて法改正前の出来事です。
改正プロバイダ責任制限法の附則第3条では、施行後5年を目途に見直し規定を設けています。また、同じく3年ごとの見直し規定を附則で設けている「個人情報保護法」と同様に定期的に改正して必要な措置を講じる見通しです。
改正プロバイダ責任制限法+改正刑法(侮辱罪厳罰化)は表現規制案としてはトップレベルの危険度です。イデオロギーに関係なく相反する側の活動家やタレントに濫用されるリスクは覚悟しなければなりません。今後の運用に要注視です。





- ジャンル:政治・経済
- テーマ:政治・経済・時事問題